【連載】「解体から再生へ」―ルクセンブルクパビリオンが挑んだ循環の物語

第5回 部材編③ 外装パネルが新たな建物の建築現場に

03/06/2026

5回 部材編③ 外装パネルが新たな建物の建築現場に

パビリオンの各ボックスを覆っていたグレーの外壁。ルクセンブルクの国旗の色である赤と青のバンドをまとった、ルクセンブルクパビリオンを印象付ける部分でした。

実はこの特徴的な外壁には、本来外壁材としては用いられることのない素材が用いられています。それは型枠パネルといって、通常工事現場でコンクリートを流し固めるために使われるパネルです。このような工事現場で使われる資材を使って外壁を作るという斬新なアイデアは、設計を手掛けたルクセンブルクの建築事務所STDMによるものです。開催期間6ヶ月の万博のために資材を消費するのではなく、「一時的に借りる」という考えを具現化した外壁ということができます。

©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka - Vincent Hecht

型枠パネルを使った外壁という異例のアイデアに対し、施工会社から会期中パネルが風雨に晒されることで劣化するのでは、との懸念が示されました。また止水性(建物内部への水や湿気の侵入を防ぐこと)をどのように確保するかも課題となっていました。そこでこれらの機能を検証するため、パビリオンの施工契約締結後の2023年12月に、建築家と施工者によるモックアップ(試作品)が立ち上げられました。山梨にある内藤ハウスの本社敷地内に設置されたモックアップでは、様々な気象条件下でパネルがどのように機能するか、そしてパネル自体にどの程度劣化がみられるか観察されました。結果として、幸い当初の懸念であった極度の反りなどは見られず、設計通りの施工を進めることになりました。

内藤ハウス本社に設置された検証用のモックアップ。画像提供:株式会社内藤ハウス

またこのパビリオン外装の施工方法には、パネルを再利用するのための工夫が見られます。それぞれのパネルは鱗のように少しずつ重ね合わされ、フックを使って固定されています。このようにできる限りビス止めしない方法で固定することで、パネル自体に傷をつけることなく施工し、解体時に再利用に適した状態を保つことができます。またパネルは元々のサイズである縦90cm横180cmを加工せずそのまま使用しています。このことがそれぞれの箱型の建物の大きさを規定し、パビリオン全体に大小のメリハリを生み出しています。

©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka - Ondrej Piry

このように再利用を意図して設計、施工された外壁は白い膜屋根とともに、ルクセンブルクパビリオンの特徴の1つとなりました。一方、施工中から施工会社の内藤ハウスが中心となり再利用先の候補を当たりましたが、新品が安価に入手できることから交渉が難航し、別の用途への転用についても有効なアイデアが見つかりませんでした。万博開幕から数ヶ月後、ついに内藤ハウスから「コンクリート施工用の型枠パネルの再生サービスを行っている企業が京都府にある」との連絡が入りました。この企業、有限会社神工建設(以下、神工建設)は、使用済みの型枠パネルをベニヤ板と桟木に分離し、新たなベニヤ板を桟木に張り直して再利用させることで、施工コスト削減と廃材の削減に貢献しています。この事業を可能にしている同社開発の型枠パネル分離装置「ペラペラくん」で、特許と国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)登録を取得していました。同社より、パビリオンの外壁パネルについて、桟木に貼って再利用できる可能性があると前向きなご回答をいただきました。

本プロジェクトの対応にあたった神工建設の神専務は、施工会社の内藤ハウスから連絡を受けた時、「はじめはうまく再利用できるか心配だった。」と話します。外装パネルとして約半年以上の雨風を受けていることから、再利用時の耐久性も心配要素のひとつでした。それでも、内藤ハウスの熱意と、2025年8月にルクセンブルクパビリオン関係者が同社を訪問して訴えた国としてのプロジェクトへの想いに動かされ、再利用に取り組むことを決意してくださったのです。こうして、閉幕を目前に控えた中でプロジェクトは動き出しました。

閉幕直前の2025年10月初旬、神専務がパビリオンを訪問され、ルクセンブルクパビリオンのコミッショナージェネラル アンドレ・ハンゼンとの面会が実現しました。パビリオン内で万博閉幕後の再利用に向けた覚書への調印が行われました。

 

10月13日の万博閉幕後、解体工事が進む会場ではルクセンブルクパビリオンの外壁パネルが一枚ずつ手作業で丁寧に外されていました。重機を使った大規模な解体工事が多い中、ルクセンブルクパビリオンでは職人の手による解体が静かに進んでいました。会場に積み上げられた外壁パネルの総数は875枚にのぼります。

パビリオンにて解体され、神工建設に運び込まれるパネル。 画像提供:有限会社神工建設

パネルはトラックに載せられ、京都府京田辺市の神工建設へと運び込まれたのち、同社が担当する現場で分譲マンションの階段を施工する壁型枠として使用されました。一般的に普及している黄色塗りのコンパネとは見た目と作りが違うものでしたが、現場で了承を得ながら作業は進み、結果すべてのパネルが再利用されました。

外装パネルが再利用された現場。 画像提供:有限会社神工建設

建築家の目論見通り、6ヶ月間パビリオンの外壁として機能したあと、解体され資材が経済的に循環していく、まさに循環型経済を達成した事例の一つと言うことができます。

次回はいよいよ4つの主要部材の最後となる鉄骨構造の再利用をご紹介します。


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