【連載】「解体から再生へ」―ルクセンブルクパビリオンが挑んだ循環の物語

第4回 部材編② 地中から掘り起こされた巨大ブロックの行方

07/05/2026

第4回 部材編② 地中から掘り起こされた巨大ブロックの行方

パビリオンの躯体を構成する4つの主要部材(膜屋根、コンクリートメガブロック、外装パネル、鉄骨構造)のうち、基礎に使われたコンクリートブロックは、会期中来場者の目に触れることはありませんでした。それもそのはずー開幕まで1年を切った2024年5月頃には、すでに大半の基礎工事が完了し、ブロックは地中に埋められていたからです。会期中は文字通り“縁の下の力持ち”としてパビリオン全体を支えていたコンクリートメガブロック。今回は、そんな基礎の再利用に焦点を当ててご紹介します。

第2回で触れた「サーキュラー・バイ・デザイン(循環型設計)」の考え方に基づき設計されたルクセンブルクパビリオンですが、中でもこの設計コンセプトを象徴するのがこの基礎部分です。通常、建物の基礎は型枠にコンクリートを流し込んで作られます。この方法で作られた基礎は安定性に優れている一方、補強鉄筋を組み込んで固められてしまっているため資源として再利用することは困難です。解体の際には基礎部分を砕いてコンクリートと鉄材に分別し、それぞれをリサイクルするのが一般的です。

このような前提を覆し、基礎の再利用を可能にするべく建築家が考案したのが、「あらかじめ形作られたコンクリートのブロックを並べて基礎にする」という方法です。写真のように凹凸のある、1つ重さ約2.4トンの巨大なコンクリートブロックを地面に敷き詰め、その上に鉄骨を並べボルトで固定する仕組みです。この方法であれば、解体時にはボルトを外すことで鉄骨とコンクリートブロックを取り外すことができ、それぞれ再利用することが可能になります。

凹凸のあるコンクリートメガブロック。1つの重さは約2.4トン。画像提供:内藤ハウス

前例なき基礎工事、その実現を支えた技術と努力

このような工法は世界でもほとんど前例のないものであったため、当初は施工を担当する内藤ハウス社内でも施工に関して不安の声が多く、何度も検討が重ねられました。しかし、「循環型設計の思いを必ず形にする」という設計者の強い意志に社員全員が共感し、その想いを共有する中で、次第に困難があっても最後までやり遂げようという気持ちが自然と生まれたといいます。最終的に、会社としてこの革新的な設計を受け入れ、施工に踏み切る決断に至りました。施工にあたり、最も困難だったのはブロックを設計通りの位置と高さに据え付けるための精度の確保だったといいます。従来の工法であるコンクリートを流し固める基礎は表面を均せば水平が取れますが、すでに形成されたブロックを並べるとなると、わずかな沈み込みやブロック同士のズレが全体の傾きに、ひいてはその上に建つ鉄骨構造や、膜屋根の安定性にまで影響を及ぼします。施工担当者は「測量機器を併用しながら、位置や高さを一つ一つ確認し、少しでも納得がいかない場合は何度も据え直す作業を繰り返した」と話します。そのような積み重ねの結果、最終的に設計通りの施工が実現されました。建築家の革新的アイディアを実際に形にするまでには、こうした施工関係者の時間をかけた丁寧な仕事があったのです。

基礎部分施工の様子。画像提供:株式会社内藤ハウス

つくるだけでは終わらない——再利用先を探すという難題

施工時点で、前例がなく困難を極めたパビリオンの基礎。このコンクリートブロックに、実際の再利用先を見つけるという新たな課題が立ちはだかりました。再利用を前提に設計され、パビリオンの施工自体は始まったものの、実はその時点ではまだ再利用先は決まっていなかったのです。施工前の段階から、ルクセンブルク側パビリオン関係者や内藤ハウスをはじめとする関係者が、それぞれのネットワークを頼りに心当たりのある企業に打診し、プロジェクトの糸口を探そうと奔走しました。しかし前例のない取り組みであることや、コスト・用途の制約もあり、なかなか具体的な受け入れ先は見つかりませんでした。

こうした状況を受けて、施工開始から間もない2024年2月、パビリオン部材の再利用を本格的に検討する「サーキュラーエコノミー検討会議」が立ち上がります。

この会議には、コミッショナーの命を受けたルクセンブルク貿易投資事務所やコンストラクションマネジメントを担当するフロンティアコンストラクション&パートナーズに加え、空間づくりを手掛ける株式会社船場(以下、船場)が参加しました。船場は「Good Ethical Company」をビジョンに掲げ、内装資材のアップサイクルにも取り組んでいます。その知見に期待が寄せられ、再利用の可能性を広げるパートナーとしての参画が決まりました。

会議では、4つの主要部材それぞれの再利用方法の検討が進められました。コンクリートブロックについてもこれまで以上に幅広い可能性を視野に入れた再利用のアイデアが多数出されました。具体的な再利用先の特定に向けて、関連のありそうな企業や団体へ各会議体参加者がアプローチしましたが、前例がない取り組みであることや事業合理性の観点から実現が難しいと判断されるケースが多く、再利用先の特定は難航しました。コミッショナーの依頼により、船場は再利用先の候補企業・機関をリストアップし、プロジェクト説明とヒアリングを個別に実施しましたが、プロジェクトへの関心は確認されたものの、取り組みの困難さから実施への具体的協議に至りませんでした。

ようやく見つけた、コンクリートブロックの“次の居場所”

そのような地道な努力を続けること約5ヶ月、再利用先の有力候補として浮かび上がったのが、兵庫県の大自然に囲まれた冒険テーマパーク「ネスタリゾート神戸」を運営する株式会社ネスタリゾート神戸(以下、ネスタリゾート神戸)でした。同社の掲げるビジョンはルクセンブルクパビリオンが計画初期から貫いてきた「サーキュラー・バイ・デザイン」の思想とも深く響きあっていました。解体されて終わるのではなく、建材が新たな役割を担いながら生き続けていく――そうした循環の考え方が現実のかたちをとりはじめ、コンクリートブロックの受け入れにつながったのです。ネスタリゾート神戸広報担当の太田乃輔氏は、開業10周年を迎える今年、同社が掲げたブランドコンセプト『ARC(アーク)ビジョン』――冒険《Adventure》 / 再生・循環《Regeneration》 / 共創《Co-Creation》――に、このプロジェクトの哲学が深く重なったと語ります。「ARCビジョンは、体験を通じて社会や次世代とつながるテーマパークでありたいという考えです。ルクセンブルクパビリオンのサーキュラー・バイ・デザインという哲学――廃棄ではなく、その先の循環まで見据えて設計するという思想に、私たちの掲げる再生、循環や共創の志が呼応していたことが、ご縁の出発点でした。これでまで地中で建築を支えてきたコンクリートブロックが、一つの役割を終えた後も新たな価値として循環していく。そのようなプロジェクトにご一緒できることを、ありがたく受け止めています」と語ります。同施設は万博会場から比較的近い兵庫県に位置することから、コンクリートブロック輸送時のCO2排出も抑えられ、まさにパビリオンチームにとってはこれ以上ない理想のパートナーでした。

検討会議発足から9ヶ月後の2024年11月、ようやくルクセンブルク側パビリオン関係者とネスタリゾート神戸、事業をプロデュースする船場の間で最初のミーティングが実現し、具体的な引き渡しや活用方法の検討が開始されました。ベンチや駐輪場といった活用案も出る中、最終的にはコンクリートブロック全量である約220個を園内の環境整備用の「擁壁」として活用していただけることが決定しました。コンクリートブロックは、自然に囲まれた施設内で大雨による斜面の崩れを防ぐ役割を果たします。

ネスタリゾート神戸の園内に並べられたコンクリートブロック。画像提供:ネスタリゾート神戸

地中から現れたコンクリートブロックは、新たな場所で次の役割へ

閉幕から約4ヶ月後の2026年2月、上部構造の解体を終えた現場で、いよいよコンクリートブロックの掘り起こしが始まりました。施工時に最初に地中へと据えられたブロックは、約2年ぶりに再び地上へと姿を現します。クレーンで一つひとつ丁寧に吊り上げられたブロックは、驚くほどきれいな状態を保っており、そのまま洗浄されたのち、トラックで仮保管場所へと運ばれていきました。

地中から掘り起こされるコンクリートブロック。 画像提供:内藤ハウス








クレーンで吊り上げられ、トラックへ積まれるコンクリートブロック。©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka

仮保管場所からネスタリゾート神戸へと運ばれたコンクリートブロックは、「擁壁」という新たな役割を担い、人々の時間や空間を支えていきます。さらに、このブロックにはミューラルアーティスト・KAC(ケエシ)氏によるミューラルアート(建物や公共施設の壁面、シャッターなどに直接描かれる大型アート)が施され、万博の記憶を未来へとつなぐ象徴的なモニュメントへと生まれ変わろうとしています。地中にあったコンクリートが、その循環を物語る象徴として人の目に触れる存在へと変わっていくのです。ネスタリゾート神戸の太田氏は「ARCビジョンには、体験が社会や文化、次世代へと受け継がれていく道筋をつくりたいという願いも込められています。大阪・関西万博のサブテーマ『いのちをつなぐ』を、ルクセンブルクパビリオンは空間そのもので体現してくださいました。万博閉幕後もこのバトンを途切れさせず、ネスタの風景のなかでその哲学を継承していきたい。その願いに、ミューラルアーティストのKAC氏が祈りを込めて、コンクリートブロックに新たな命を吹き込んでくださいます。50年後の誰かがこのミューラルアートの前で立ち止まり、2025年という時代を想像してくれたなら、それが私たちにとっての最大の成果です。太陽の塔が現在も人々の心を揺さぶるように、このミューラルアートも存在自体が未来へのメッセージになってほしいと願っています」と語ります。

 ネスタリゾート神戸では、5月26日にこのコンクリートブロックのお披露目イベントの開催が予定されています。万博から受け継がれた素材が、新たな場所でどのように息づいていくかを実際に目にすることができる機会となります。詳細は同社のウェブサイトをご覧ください。

 

このように建築の主要構造材を大規模に再利用する取り組みは、日本国内ではまだ前例が少なく、その道程は決して容易なものではありませんでした。再利用先の特定から施工、そして活用方法の検討に至るまで多くの課題に直面しながらも、関係者が立場を越えて繋がりそれぞれの知識とアイデアを集結することで、この挑戦はかたちとなりました。万博という舞台は、現実を再考し新たな試みにチャレンジできる「未来社会の実験場」です。この挑戦の成果が、人類が向かうより良い未来のための一歩となりましたら、これほど嬉しいことはありません。

 

次回は、パビリオンを覆っていた外装パネルの行き先をご紹介します。


本件に関するお問い合わせ先はこちらまで:

ルクセンブルク貿易投資事務所 松野・星

TEL. 03-3265-9621

Email. yuriko.matsuno@mae.etat.luayae.hoshi@mae.etat.lu