【連載】「解体から再生へ」―ルクセンブルクパビリオンが挑んだ循環の物語

第3回 部材編① 膜屋根があなたの手元にー大人気バッグコレクションへの変貌

10/04/2026

第3回 部材編① 膜屋根があなたの手元にー大人気バッグコレクションへの変貌

今回からは、いよいよパビリオンの建築部材や家具がどのように再利用されたのか、具体的な事例をご紹介します。第3回目は、パビリオンの膜屋根の再利用事例をお届けします。

万博会場の大屋根リングから見下ろすとひときわ目を引いた、美しくユニークな形の白い膜屋根を覚えていますか?ルクセンブルクパビリオンを象徴するこの膜屋根は、綿密な計算のもと丁寧に縫い合わせられた一枚の大きな膜でできていました。ケーブルを使用せずワイヤーで張って固定する構造は、建設会社をはじめとする関係者の高度な技術によって実現し、その珍しさから業界内でも注目を集めました。

©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka - Ondrej Piry

この膜屋根の設計にあたり、まず建築家が取り組んだのが、資材を「リデュース」することです。循環経済実現のためには、資源を循環させる前に、まず使用量そのものを減らすことが重要です。いわゆる「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」の中でも、「リデュース」がパビリオン設計の出発点となりました。ルクセンブルクパビリオンは、面積約1200平方メートルにわたって、複数の箱が組み合わさったデザインでした。万博会期中、建物だけでなく、来場者も日差しや雨風から守るためには、全体を覆う屋根が欠かせません。採用された膜素材は軽量かつ高性能で、パビリオン全体を覆うのに必要な材料はわずか約1.5トンでした。建築家が仮に別の資材を膜屋根に使用していた場合の必要量を試算したところ、鉄筋構造だと約30トン、木材でも約20トンになったそうです。最小限の材料で複数の機能を果たす設計により、パビリオン建設に使用する資材の大幅な削減を実現しました。

雨水を再利用。膜屋根が果たすもう一つの役割とは。

この膜屋根にはもう一つの機能がありました。それが、雨水を貯める「漏斗」としての役割です。膜屋根の窪みで集められた雨水は、漏斗状の部分を通って地下タンクに貯められ、ろ過したものを植栽の水やりやトイレ用水として再利用していました。パビリオンの内部でも、小さな循環が実現されていたのです。






©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka Vincent Hecht

万博会期中の特に暑い時期には、この膜屋根が強い直射日光を遮り、来場者に心地よい日陰を作り出していました。特に展示を見終えた来場者がたどり着く中庭は、上にかかる膜屋根が日差しを遮り、風通しがよい空間が広がっていました。ルクセンブルクの伝統的な球技「ケーレブン(ボウリング)」を楽しんだり、ルクセンブルクビールで乾杯したりと、来場者が思い思いの時間を過ごす憩いの場となっていました。

©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka Vincent Hecht

膜屋根の新たな行き先が見つかるまで

建築家は、このように多くの役割を担う膜屋根の循環を見据えていました。耐水性、耐久性に優れた膜屋根の素材は、6ヶ月間使用した後でも、丁寧に解体すれば再利用ができると想定されていたのです。一方で、実際に再利用パートナーを探すことは簡単なことではありません。パビリオンの施工契約が結ばれた2023年9月直後から、関係者総出で膜屋根の再利用に向けた検討が開始されました。膜素材だけでなく様々な素材や商材を扱う企業に接触し、テント膜としての再利用やコースター等へのアップサイクルなどアイデア出しと検討が進みました。しかし、そもそも解体したあとの膜素材の状態や使用できるサイズなど不確定要素が多く、具体的な再利用先の特定になかなか至りません。パビリオンの屋根として使用されることで、ワイヤーの張力による劣化や、海風による塩害などが起こる可能性が懸念され、企業にとっては新品素材を使用する方が確実で生産も容易だという結論になるためです。手探りの状態で検討を続けること約半年、施工会社の内藤ハウスの紹介によりパートナー候補として上がったのが東京都港区青山に店舗を構える株式会社モンドデザインでした。「環境にやさしいデザイン」をコンセプトに、廃タイヤや廃棄されたビニール傘をカバンやアクセサリーなどにアップサイクルしている同社は、その経験と職人の技術を活かしてこの膜屋根を再利用できるかもしれないと興味を示しました。堀池社長は、大阪・関西万博で使われた素材にはストーリーという価値があると言い、ルクセンブルクパビリオンのリユースプロジェクトに共感してくれました。普段、廃タイヤのような硬く不均一な素材を扱っている職人だからこそ、引っ張りによる膜の多少の歪みを補正し生産できるかもしれない、ということも大きな後押しとなりました。

膜屋根素材の大変身!

2024年2月、ルクセンブルク側パビリオン関係者とモンドデザインの初めてのミーティングが行われ、同社の取り組みの内容とパビリオンの再利用プロジェクトについて意見交換がなされました。プロジェクトを実現するために膜屋根の解体方法や、解体後使える膜屋根面積の試算など、詳細を詰めていきます。そして万博開幕年となる2025年初頭、膜屋根のサンプルを使った試作品第1号が完成しました。「SEAL」というシリーズでデザインされたボストンバッグ 、ワンショルダーバッグ、グラスケース、ミニウォレットの4つのアイテムは、膜屋根の白さを活かしシンプルかつスタイリッシュに仕上がり、ようやく膜屋根の具体的な再利用の形が見えてきました。

画像提供:株式会社モンドデザイン

解体まで膜の状態や使える量が分からないため、予定生産数は一旦試算を元に余裕を持って決められ、万博開幕と同時にルクセンブルクパビリオン内ショップでの予約販売が開始されました。予約注文用のQRコードとともに試作品を展示したところ、パビリオンの一部を手元に残せるこの特別な取り組みは多くの来場者の関心を呼び、バッグは閉幕前に1200個以上を売り上げる大人気商品となりました。

万博の閉幕、そして膜屋根は次の持ち主のもとへ

閉幕から1ヶ月程が経った2025年11月下旬、ついに膜屋根の解体工事が始まりました。他に類を見ない珍しい施工法の膜屋根は、その解体も初めての試みです。余裕を持った解体スケジュールが組まれ、作業は慎重に進められました。まずはパビリオン周辺に足場を組み、膜屋根を張っていたワイヤーを緩めて、パビリオンを形作る箱の上に慎重に膜屋根を下ろしていきます。緩んだ膜屋根を間近で確認すると、6ヶ月間日光や雨風に晒されたにも関わらず耐水性、耐久性を十分に維持し綺麗な状態でした。ここから膜屋根を、次の用途のための新たな「素材」として生まれ変わらせるために、職人の手作業で丁寧にカットしていきます。バッグとして最大限に活用できる部分を残すため、特別な配慮のもとで作業が進められた結果、最終的には予定していた数量よりも多くアイテムを生産することが可能になりました。

© GIE Luxembourg @ Expo 2025 Osaka

解体されたルクセンブルクパビリオンの膜屋根は、全てが大阪の縫製工場に運びこまれ、職人の手で一枚ずつ丁寧に洗浄されたのち、生産される4アイテムの型に沿って裁断されました。そしてアイテムとして生まれ変わった膜屋根は、日本全国、そして世界中で商品の到着を待つ次の持ち主へと届けられます。

画像提供:株式会社モンドデザイン

パビリオンの象徴としての役目を終えた膜屋根は、今度は入れ物として持つ人の大切なものを運ぶという新たな役割を担います。手元において、膜屋根が持つストーリーに思いを馳せてみると、地球上の限りある資源や、その循環について考えるきっかけになるかもしれません。

膜屋根がアイテムに生まれ変わっていく工程は、モンドデザインのブログで詳しく紹介されておりますので、そちらも是非ご覧ください(下記参考URLをご参照ください)。

次回はパビリオンの基礎部分に使われたコンクリートブロックの再利用事例をご紹介します。


【参考URL】

株式会社TRA・K(膜構造施工会社)ウェブサイト

https://www.tra-k.co.jp/archives/1426

株式会社モンドデザイン プレスリリース(2025年5月15日)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000073.000026462.html

株式会社モンドデザイン 店舗ブログより

【進捗レポート】大阪・関西万博 ルクセンブルクパビリオン。屋根幕の再利用プロジェクト、その裏側と職人の手仕事。(2026年1月14日)

https://seal-brand.com/blog/column/expo2025-luxembourg-pavilion-upcycling-process/

【進捗レポートVol.2 】大阪・関西万博。屋根幕をバッグへと導く、緻密な裁断と「漉き」の技術。(2026年2月18日)

https://seal-brand.com/blog/item/expo2025-luxembourg-pavilion-upcycling-process-vol2/ 


本件に関するお問い合わせ先はこちらまで:

ルクセンブルク貿易投資事務所 松野・星

TEL. 03-3265-9621

Email. yuriko.matsuno@mae.etat.lu / ayae.hoshi@mae.etat.lu