第6回 部材編④ 鉄骨構造がつなぐ未来
ルクセンブルクパビリオンの躯体を構成する4つの主要部材のうち、これまで第3回で膜屋根、第4回でコンクリートメガブロック、第5回で外装パネルを紹介してきました。今回は、主要4部材の最後となる鉄骨構造についてご紹介します。
鉄骨構造は、膜屋根や外装パネルとは違って目に見えないものですが、展示物を覆う建物の躯体を立ち上げるためにはなくてはならない存在です。パビリオンの大小様々のボックスは、基礎コンクリートブロックの上に立ち上げられたシンプルな鉄骨の構造体で形作られていました。
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©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka
鉄骨構造には、建物を支えるための強度と耐久性が求められます。一方で、閉幕後にパビリオンの資材循環を達成するためには、解体しやすい構造であることも重要なポイントでした。
そこで施工においては、接着や溶接といった一般的な方法ではなく、ボルトとナットを使った機械的な接合が採用されました。こうすることで閉幕後に建物を解体する際、ボルトとナットの接合部を緩めることで鉄骨を傷つけることなく一つずつ解体し、別な場所で新たな役割を担う部材として、再利用することが可能になります。
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©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka - Ondrej Piry
いよいよパビリオン躯体解体へ
施工の工程で基礎コンクリートブロックの上に組み上げられた鉄骨は、万博の閉幕後、いよいよ解体の時を迎えました。
通常、建物を解体する際には、圧砕機という大きなハサミのような重機を使って外壁や鉄骨を粉砕して解体していきます。しかし部材の再利用を目指すルクセンブルクパビリオンは、そのような解体方法をとることはできません。
躯体の鉄骨構造は、施工時とは逆の手順を辿りながら解体されていきました。一つ一つのボルトとナットを緩めて、手作業で取り外しが進められます。作業の順序を誤れば、構造全体の安定性を失い倒壊につながる恐れもあるため、解体作業は通常の解体以上の時間をかけながら慎重に進められました。
©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka
鉄骨、未来への再出発
再利用先の特定にあたっては、他の部材と同様に多くの時間と労力がかけられました。施工契約締結直後から、施工会社の内藤ハウスが様々な自治体や企業に幅広く問い合わせ、鉄骨の再利用可能性を探りました。その中で名乗りを上げてくださったのが、開催地である大阪府の北東部に位置する交野市(かたのし)です。交野市では2025年に閉校する交野市立第一中学校の跡地活用について議論が進められており、その跡地に整備される施設にパビリオンの資材を再利用できる可能性が見えてきたのです。
パビリオンの施工契約が結ばれた直後の2023年10月、ルクセンブルク側パビリオン関係者と交野市長との初めての面会が実現し、ルクセンブルクパビリオンの目指す循環経済の考え方が交野市側に共有されました。交野市は、万博の掲げる「持続可能な開発目標達成への貢献」とも呼応するこの考え方に賛同し、両者は万博閉幕後のパビリオン部材再利用に向けた協議を進めることに合意しました。
その後、万博会期終盤まで再利用に向けた両者の協議は続きました。活用案が具体化する中で、交野市はルクセンブルクという国についての理解を深める中で特徴ある教育制度を知り、またパビリオンに込められた循環への想いやその部材を引き継ぐ意義を踏まえ、ルクセンブルクパビリオンの部材を子育て支援施設整備のために活用したいという考えを示しました。こうしてパビリオンを支えていた鉄骨は、万博の閉幕後も新たな場所で活用される道筋が定まったのです。
鉄骨が担う新たな役目
交野市にパビリオン部材を再利用して整備される予定の子育て支援施設は、ルクセンブルクパビリオンと同じように複数の棟が連結した作りとなっています。各棟にはさまざまな年代の子どもたちのための遊戯施設や、子育てを支援するための機能が設けられる計画で、これらの棟にルクセンブルクパビリオンのAct1、Act2、Act3等の4つの建物を形作っていた鉄骨構造が使われる予定です。施設は同市の新たな憩いの場としてその登場を待たれていると同時に、限りある資源を活かしながら新たな価値を生み出す“循環”を体現する場所としても注目を集めています。

交野市内の仮置場に保管されている鉄骨。 画像提供:交野市役所
施設の完成は令和9年度中に予定されています。子どもたちやその家族が過ごす場所を支える構造材として新たな役割を担う鉄骨は、施設工事が開始されるまで交野市内の仮置場に保管されています。新たな施設の詳細については交野市公式ウェブサイトで公開されておりますので、是非ご覧ください。

新しい施設のイメージ図。 画像提供:交野市役所
主要4部材の循環、その先へ
ここまで、パビリオンの躯体を構成する主要4部材がどのように設計され、解体され、そして次の場所へと引き継がれていくのかをご紹介してきました。これら4部材の再利用が実現したことで、ルクセンブルクパビリオンの資材全体のうち重量ベースで少なくとも80%を循環させるという目標が達成されました。
ルクセンブルクの建築家が掲げた「サーキュラー・バイ・デザイン(循環型設計)」という考え方は、設計段階の理想にとどまることなく、その想いに共感し賛同した多くの日本の関係者やパートナー企業の尽力によって、実際のプロジェクトとして形になりました。
プロジェクトが始動したばかりの頃には、再利用の前例が少ないことや、具体的な再利用先を見つける難しさなど、さまざまな高い壁が立ちはだかっていました。それでも関係者が一つひとつ課題に向き合い知恵を出し合いながら前に進んだことで、パビリオンの資材は廃棄されることなく、それぞれの場所で新たな役割を担うことになりました。
このように理想を理想のまま終わらせず、実際の建築として実践することに挑戦できたのは、万博という舞台があったからこそとも言えるでしょう。私自身このプロジェクトを通して、万博が持つ「未来社会の実験場」としての意義を改めて実感しました。
次回からは少し視点を変え、主要4部材以外にも再利用が実現した部材や家具をご紹介していきます。ルクセンブルクパビリオンを形作っていたものたちが、新たな場所でどのように息づいているのか、是非引き続きご覧ください。
【連載】「解体から再生へ」―ルクセンブルクパビリオンが挑んだ循環の物語 バックナンバー