第7回 部材編番外 ボウリングレーンの意外な再出発
第3回~第6回では、ルクセンブルクパビリオンの躯体を構成する4つの主要部材である膜屋根、コンクリートメガブロック、外装パネル、鉄骨構造の再利用をご紹介してきました。今回はパビリオン躯体から離れ、パビリオン内部に設置されていた施設の生まれ変わりの物語をご紹介します。
パビリオンの憩いの中心 ケーレブン
ルクセンブルクパビリオンの目玉と言われると、中庭に設置されていたボウリングを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。Act3を出てたどり着く中庭では、ルクセンブルク料理やビール、ワインが楽しめたほか、ルクセンブルクの伝統的な球技であるナインピンボウリング、「ケーレブン」を楽しむことができました。ケーレブンは一般的なボウリングと違ってピンが9本であることが特徴で、また少し小ぶりなボールには穴が開いていません。細いレーンをボールが落ちないよう慎重に、かつ勢いをつけて投げなければいけないことが、ボウリングとの大きな違いです。

パビリオンの中庭で楽しむことのできたケーレブン
伝統と伝承 ケーレブン製作プロジェクト
ケーレブンはルクセンブルク国民の間で伝統的に親しまれ、一時は国内に1000箇所もあったと言われています。その多くはカフェに設置され、家族や同僚との憩いの場となっていましたが、今では数えるほどしか残っていません。ルクセンブルクパビリオン関係者がパビリオンを設計・企画する中で、敷地の中心である中庭にこのケーレブンを設置するというアイデアが出されました。職人文化を重んじる日本とルクセンブルクの架け橋として、このケーレブンが象徴になると考えたのです。ケーレブン製作プロジェクトには、ルクセンブルク国内最後のケーレブン職人であるジョルジュ・リンスター氏が招かれました。父親から家業を継ぎ200近いレーンの製作に携わってきた彼の主導のもと、国立職業訓練センター(CNFPC)とEmile Metz専門高校の学生たちがルクセンブルク国内で、パビリオンに設置されるケーレブンの製作に取り掛かりました。このプロジェクトは、ルクセンブルクの職人魂を象徴するだけでなく、伝統技術の次世代への伝承という意味も持っていたのです。さらに、ケーレブンのボールやピン、機械部分はルクセンブルクで50年にわたり親しまれていたカフェ、Café beim Karinで使われていたものを使用することになりました。惜しまれつつ閉店したカフェのボウリングを廃棄せず何とか残したいという思いが、万博での再利用につながったのです。パビリオンへのボウリングレーンの設置は、資源の循環も意図していました。

ルクセンブルク国内で製作中のレーン
レーンは2024年末にルクセンブルク国内で完成し、日本への出発前にその除幕式が行われました。その後レーンは再度組み立てが可能なようにいくつかのパーツに分解され、カーゴルックス航空によって日本に輸送されました。2025年2月、万博会場内のルクセンブルクパビリオンに到着したレーンは、来日した職人ジョルジュ・リンスター氏と専門高校の教師たちの手で、立ち上がったパビリオン内に組み立てられていきました。

パビリオン内でレーンを組み立てる職人チーム
ケーレブンに“次のいのち”を
万博期間中、ケーレブンはパビリオンを訪れる多くの方に親しまれました。一般の来場者向けに常時開放されていたほか、ときにはパビリオンスタッフの参加する選手権やパビリオン対抗ゲームが開催されるなど、パビリオンの中でケーレブンはまさに憩いの中心となりました。しかしそんなケーレブンも、万博の閉幕とともにその役目を終えます。職人と学生たちの手で作られたレーンがこのまま廃棄されてはもったいないと、誰もが再利用を望んでいました。そんな中、パビリオン建設のプロジェクトマネジメントを担当したフロンティアコンストラクション&パートナーズ株式会社が、同社の担当する別のプロジェクト先にケーレブンのレーンを設置したいと申し出ました。万博開催中にパビリオンの解体スケジュールはすでに決まっており、レーンの解体は11月はじめに予定されていました。このタイミングに合わせての引き取りを実現するため、タイムリミットが迫る中ルクセンブルクパビリオン関係者との調整が続きました。

スタッフパーティーの目玉だったスタッフ対抗ケーレブン選手権
ケーレブン、日本での再出発
2025年11月初旬、レーンの設置に携わったルクセンブルクの職人チームが再度来日し、彼らの立ち会いのもとでケーレブンの解体作業が行われました。設置と逆の手順を辿りながら解体されていくレーンは、各パーツの重さが100kg以上になります。それをチームと施工担当者総出で持ち上げ、フォークリフトを使ってトラックに積み込んでいきました。

ケーレブンの解体、運搬の様子
解体されたレーンは三重県鈴鹿市にある複合体験型施設(教育活動拠点)、三重県立鈴鹿青少年センター(愛称:スズカト)へと運ばれました。レーンは職員10名がかりで施設内へ運び込まれ、設置場所の形状とサイズに合うよう、地元の工務店の協力を得て1/3ほどのサイズに縮小されました。ケーレブンの横には、ルクセンブルクパビリオンの写真や紹介が掲載されています。

スズカトに設置されたケーレブン 画像提供:スズカト
スズカトの担当者に寄れば、ボウリングレーンを設置してから約3か月の間に延べ250名ほどの利用があったとのことです。ルクセンブルクパビリオンを訪れたことのある方もない方も、新たな地に設置されたケーレブンを楽しんでいるそうです。
「ルクセンブルクパビリオンには行けなかったが、スズカトにあることを知り体験しにきた」「ルクセンブルクパビリオンで体験したボウリングをまたやりたくなったので、遊びに来た」「テレビで見て体験したくなった」などさまざまな声があったそうです。
パビリオンにいらしたことのある方も、そうでない方も、是非一度ケーレブンを体験しにスズカトを訪れていただければ幸いです。詳細はスズカト公式ウェブサイトをご確認ください。
また、ルクセンブルクパビリオン公式ウェブサイト及びアプリでは、バーチャルパビリオンの中でケーレブンを楽しむことができます。こちらも是非一度お試しください。 
次回は、パビリオン内で使われていた家具や備品の再利用をご紹介していきます。引き続きご覧ください。
【関連ウェブサイト】
RTL(ルクセンブルク国営放送)でのケーレブン製作プロジェクトに関する放送:https://www.rtl.lu/news/panorama/dei-leidelenger-keelebunn-fiizt-sech-fir-osaka-eraus-2265712(ルクセンブルク語)
ルクセンブルクパビリオン公式ウェブサイトでのケーレブン製作プロジェクトに関する記事:https://expopavilion.lu/2024/12/13/keelebunn-as-interior-design-centerpiece-with-a-story/(英語)
本件に関するお問い合わせ先はこちらまで:
ルクセンブルク貿易投資事務所 松野・星
TEL. 03-3265-9621
Email. yuriko.matsuno@mae.etat.lu / ayae.hoshi@mae.etat.lu
【連載】「解体から再生へ」―ルクセンブルクパビリオンが挑んだ循環の物語 バックナンバー