【連載】「解体から再生へ」―ルクセンブルクパビリオンが挑んだ循環の物語

第8回 家具・備品編 家具と備品がつなぐ万博とその後の時間

28/09/2026

前回まではルクセンブルクパビリオンの躯体を構成する部材や、パビリオン内に設置されていたボウリングレーンの再利用についてご紹介してきました。

パビリオンの主要4部材の再利用が実現したことで、当初から掲げていた建築の循環経済という目標を達成することができました。しかしパビリオンが循環の実践をめざすうちに、建築部材にとどまらず、様々な再利用のアイディアが生まれました。パビリオンを形作るあらゆる要素を可能な限り次の使い手へ引き渡したいという熱意は、パビリオン建設に携わった関連会社や万博会期中に取引のあった企業・自治体などにも伝わり、段々と取り組みの輪が広がっていきました。今回はその結果実現した再利用事例の一部をご紹介いたします。

パビリオンのVIPルームのためにあつらえた唯一無二のデザイナーズ家具 - 閉幕後はオンラインで再販され完売

非公開でしたが、ルクセンブルクパビリオンの裏手には特別なゲストを迎えるためのVIPルームがあり、万博会期中にはルクセンブルクのロイヤルファミリーをはじめ多くの国際的なVIPがこの部屋を訪れました。室内にはリラックスできるチェアやローテーブルなど、ルクセンブルクのデザイナーによって製作されたこだわりの家具が設置されていました。

©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka - Vincent Hecht

万博という特別な時間を過ごしたこれらのデザイナーズ家具を、閉幕後に次の世代へ繋ごうと、家具の設置決定直後から再販を目指すプロジェクトが立ち上がりました。万博開幕前よりルクセンブルクと縁の深い楽天グループは、グループとしてサステナビリティを推進する様々な活動を展開しています。同社に協力を仰ぎ、話し合いを重ねた結果、同社運営のECサイト『楽天市場』上で家具の販売と二次利用に取り組む株式会社イー・ユニット(東京に本社、福井県に営業所)によりこれらの家具が再販されることが決定しました。

万博閉幕直後の2025年10月16日、パビリオンのザール館長自ら福井県へ車を走らせ家具は同社の倉庫へ運び込まれました。クリーニングと手入れが施された家具は、楽天市場で販売が開始されるやいなや、実際に万博で使われていたという希少性の高さから多くの方の関心を呼びました。28点あった家具は完売して日本全国の次の持ち主の手に渡り、これからも大切に使われ続けていくことでしょう。

株式会社イー・ユニットプレスリリース(家具はすでに完売):

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000082948.html

展示 Act1の内装木材は椅子へと生まれ変わる

ルクセンブルクパビリオンの1つ目の部屋「Act1:人々」では、カラフルなボックス内にルクセンブルクに住む人々の暮らしが再現され、その生活の様子を垣間見ることができました。

©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka - Ondrej Piry

この展示の内装施工を担当した大日本印刷株式会社は、ルクセンブルクパビリオンの目指す循環経済の達成という理念に共感し、内装に使用された部材の再活用を検討しました。同社は、Act1のボックスとして使われた木材を3Dプリンターを用いて椅子へアップサイクルすることを提案しました。ボックスの解体後、木材は回収・粉砕され、3Dプリンター用のペレット(粒状の樹脂原材料)として再加工された上で、椅子として成形されました。完成した椅子は、同社及びルクセンブルクと交流の深い上智大学へ寄贈されました。椅子の中央部分には、上智大学のエンブレムである鷲がデザインされています。

上智大学に寄贈された3Dプリントの椅子 画像提供:大日本印刷株式会社

万博会場で人々の暮らしを伝えていた展示の一部が、形を変え今度は学生たちが過ごす空間で使われることになったのです。

大日本印刷株式会社ウェブサイト内記事:

https://www.dnp.co.jp/news/detail/20177782_1587.html

憩いの場 中庭の家具は、岸和田市で次の役割を担う

パビリオンの中庭は、ルクセンブルクのビールやソーセージを楽しめる場所として、多くの来場者で賑わいました。そこで使われていたテーブルや椅子などの家具は、閉幕後もまだ使用できる状態であったことから、再利用の可能性が模索されました。その中で、内装工事を担当した企業からの紹介をきっかけに御縁が生まれたのが大阪府岸和田市でした。

同市は漁港に隣接するマルシェのリニューアルを計画しており、2026年秋のリニューアルオープンに合わせ、ルクセンブルクパビリオンの家具や建具を再利用したいという申し出をいただきました。

閉幕の迫る2025年10月初めに同市の担当者によるパビリオン訪問が実現し、再利用する物品や引き取りのスケジュールについて具体的な話し合いが行われました。最終的に、中庭で使われていたテーブルや椅子などを中心に50品目以上の家具・備品が再利用されることになりました。万博期間中多くの人々が集い楽しんだ中庭の家具は、今度は岸和田市で人々を迎えることになります。

岸和田市にリニューアルオープン予定の地蔵浜マルシェのイメージパース 画像提供:岸和田デジタル水産業推進協議会

食器や余った紙袋も無駄なく。demo!expoによるアップサイクルとリユース

大阪を中心に、万博の価値を会場内外に広め「まちごと万博」を創り上げる活動に取り組んでいるdemo!expoという有志の団体があります。同団体は、万博閉幕後も引き続き大阪を盛り上げたいという想いを胸に、閉幕直後に大阪市内の公園でマルシェ型イベント「世界横丁」の開催を計画していました。万博に参加した国として、ルクセンブルクパビリオンからも物資の提供という形で取り組みに協力できないかと、検討が進められました。まず提供が決まったのは、プライベートダイニングルームで使用されていた食器類です。ルクセンブルクと関わりの深いセラミックメーカーであるビレロイ&ボッホから購入したもので、万博期間中は会食等の特別な機会に使用されていました。半年間の使用後も状態はよかったため、これらの食器は全てdemo!expoに引き渡し、マルシェ内の食事会「SEKAI KITCHEN」で使用してもらえることになりました。イベント後にはそれらの食器の一部は大阪市内の飲食店に譲られ、引き続き使用されています。

イベント「SEKAI KITCHEN」の様子 画像提供:demo!expo

また余っていたパビリオンのショッピングバッグも、同団体の開催するイベントで使用いただけることになりました。「万博好き集まれ!アップサイクル体験ワークショップ」と題されたイベントでは、子どもたちがルクセンブルクパビリオンのショッピングバッグを、“いつか行きたい国”への航空券入れにアップサイクルしました。2025年11月に大阪科学技術館で行われたこのイベントは大好評となり、2026年にも引き続いて3回にわたり開催されました。このように万博で使われた物品は、子どもたちの手で未来への希望へと生まれ変わったのです。








アップサイクルワークショップの様子 画像提供:demo!expo

demo!expoプレスリリース:

『世界横丁』 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000068.000139145.html

『SEKAI KITCHEN』 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000074.000139145.html

パビリオンが徹底して目指した「循環」

ここでご紹介した事例はほんの一部にすぎません。パビリオン内のオフィスで使われていた家具や電化製品、キューイングエリアのベンチなど捨てられるはずだったものも、関連企業や現場の方を中心に使いたいという方が見つかり、最終的にパビリオンに設置していたものの多くは次の持ち主の手に渡りました。万博の開催期間は6ヶ月に過ぎませんが、そこで生まれた価値や思いは半年という期間を越え、受け継がれていったのです。万博という多くの人や団体を巻き込む大規模なイベントが、それに関わる人々の間に普段の枠組みを越えた化学反応を巻き起こし、「限りある資源の循環」というテーマについて考えるきっかけを与えてくれたように思います。

次回はパビリオンの周りに息づいていた植栽の行き先をご紹介します。引き続きご覧ください。


本件に関するお問い合わせ先はこちらまで:

ルクセンブルク貿易投資事務所 松野・星

TEL. 03-3265-9621

Email. yuriko.matsuno@mae.etat.lu / ayae.hoshi@mae.etat.lu

 

【連載】「解体から再生へ」―ルクセンブルクパビリオンが挑んだ循環の物語 バックナンバー

第1回 パビリオンは終わらない——ルクセンブルクの循環への挑戦

第2回 「サーキュラー・バイ・デザイン」とは何か

第3回 部材編① 膜屋根があなたの手元にー大人気の予約販売

第4回 部材編② 地中から掘り起こされた巨大ブロックの行方

第5回 部材編③ 外装パネルが新たな建物の建築現場に

第6回 部材編④ 鉄骨構造がつなぐ未来

第7回 部材編番外 ボウリングレーンの意外な再出発