【連載】「解体から再生へ」―ルクセンブルクパビリオンが挑んだ循環の物語

第9回 植栽編 植栽が根付く次の場所

30/10/2026

第9回 植栽編 植栽が根付く次の場所

全10回の本連載も、いよいよあと2回を残すのみとなりました。ここまでパビリオン躯体の部材やパビリオン内のボウリング、家具などの再利用をご紹介してきました。再利用事例として最後にご紹介するのは、パビリオンの周辺に息づいていた植栽の物語です。

再利用を目指して設計された見た目にもユニークなパビリオンの周辺には、取り囲むように多くの緑が設置されました。ルクセンブルクは国土の大部分を森林が占めるとても緑豊かな国で、美しい自然景観を誇っています。建築家は、パビリオンの周囲に豊かな国土の風景を再現しようと試みたのです。パビリオンの施工が行われた初春に植えられた木々たちは、万博の6ヶ月間の会期を経て生長し、夏にはキューイング(整列)エリアに豊かな木陰を作るまでになりました。会期中連日賑わいを見せた万博会場で、緑はスタッフに安らぎを与えるものの一つでもありました。

植栽に水をあげるパビリオンスタッフ ©GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka - Ondrej Piry

植物を愛してやまないザール館長はじめスタッフたちは会期中、水やりや剪定などの手入れをして植物の生育を見守りました。スタッフたちの思いの込められた植栽は、しかし万博の閉幕後すぐに伐採されることが決まっていました。山から採取した自然木を移植するかたちで設置された植栽は、会期が終わったからと言って森に戻すことができないのです。そのことを残念に思っていた館長は、ある日パビリオンの施工会社内藤ハウスの担当者との打ち合わせで、植栽を施工会社の敷地に移植するというアイデアを持ち出しました。内藤ハウスの担当者はこの提案に賛同し、山梨県に位置する同社の本社への移植に向けて調整が進むことになりました。

パビリオン前のイロハモミジが山梨県へ

万博閉幕直後の2025年10月30日、パビリオンの正面に植えられていたイロハモミジを含めた15本の植栽が、山梨県韮崎市にある株式会社内藤ハウスの本社敷地内へ移植されました。本社敷地内で開催された植樹祭には多くのメディアが駆けつけ、同社内藤社長はじめ建設に携わった社員と、館長はじめパビリオン関係者が出席、参列者の手で植樹が行われました。

内藤ハウス本社で行われた植樹祭の様子と植樹されたイロハモミジ

植樹されたときに緑に生い茂っていたイロハモミジは、秋には紅葉し季節ごとの彩りを見せてくれています。夢洲でパビリオンの賑わいを見守ってきた樹木は、そのパビリオンの生みの親のもとで、静かに余生を過ごしています。

昨年の秋に美しく紅葉したイロハモミジ 画像提供:株式会社内藤ハウス

パビリオン脇の低木は兵庫県へ

兵庫県加西市にある平田運輸株式会社へも、パビリオン内の低木30本が寄贈されました。これら樹木の移植が決まったのは、万博閉幕後の2025年11月でした。この頃パビリオンの解体はスケジュール通りに開始され、引き取り手のないパビリオン周辺の低木は次々に伐採されていました。そんな中、会期中に交流のあった他パビリオンのスタッフが解体中の現場を訪れ、運輸業界でサステナビリティに取り組む平田運輸株式会社の平田社長をご紹介くださったのです。平田社長はルクセンブルクパビリオンのサステナビリティへの取り組みを知り、2026年に同社がオープンする地域協創型物流拠点「KASAI SUSTAINABLE BASE」へ植栽を一部移植できないかとご相談くださいました。パビリオンの解体が進み植栽も早急な撤去が求められる中、お話をいただいてから数日で植栽引き取りの段取りがつき、無事伐採の危機から救われた30本の低木が移植されました。








加西市の地域協創型物流拠点「KASAI SUSTAINABLE BASE」とパビリオンから移植された植栽 画像提供:平田運輸株式会社

「KASAI SUSTAINABLE BASE」の遊歩道横に移植された植栽は、季節ごとに彩りを変えながら元気に育っています。同施設は不定期で見学者の受け入れを行っており、植栽の植えられた遊歩道や、普段は見ることのできない物流施設の内部を見学することができます。詳細は同社SNSをご確認ください。

平田運輸株式会社ホームページ:https://hirata-express.co.jp/  

「KASAI SUSTAINABLE BASE」ページ:https://hirata-express.co.jp/ksb/

平田運輸株式会社プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000157144.html

平田運輸株式会社SNS

Facebook:https://www.facebook.com/hirata0111

Instagram:https://www.instagram.com/hirataexpress/

植栽は京都府へも

京都府南丹市も、ルクセンブルクパビリオンから植栽を受け継いだ場所のひとつです。京都府の中央部に位置する南丹市は、自然豊かな日本の原風景を残し、季節ごとに自然のめぐみあふれる食文化も楽しめる魅力のある市です。万博が閉幕する頃、同市は2026年9月18日から京都丹波で開催される全国都市緑化フェアに向けて、シンボルとなる公園の整備工事を進めていました。そんな中、閉幕直後に夢洲の解体現場を訪問された市のご担当者が、ルクセンブルクパビリオンの前を通りかかった際に伐採されつつある植栽を目に止めたことから、移植の検討がスタートしました。すでに植栽の多くは撤去が始まっていましたが、それでもまだ元気に残っているものを受け継ぐべく、調整が進みました。

こうして無事に南丹市に受け継がれた11本の植栽は、2026年9月19日の全国都市緑化フェア、南丹市会場オープン記念式典でお披露目され、西村市長とパビリオン関係者代表の手で植樹が行われました。

南丹市園部公園こむぎ山山頂に移植されたイロハモミジ 画像提供:京都府南丹市

ルクセンブルクパビリオン再利用の最後の事例として、今回はパビリオンを取り囲んでいた植栽のその後をご紹介しました。ここまで9回を通して御覧頂いた通り、循環を目指して設計されたルクセンブルクパビリオンは、その想いの通りに日本中で形を変え再利用されています。さらにはその想いを越え、当初再利用の計画になかった植栽までもが次の担い手へと受け継がれていきました。パビリオンの建物こそ、解体された今はその姿を見ることはできませんが、姿かたちを変えて日本各地で息づいている部材や植栽は、案外皆さんの近くにあるかもしれません。もしどこかでその姿を見かけた際には、万博の楽しい記憶やパビリオンで感じた「Doki Doki」を思い出していただけましたら幸いです。

最終回となる次回は、万博会期中の2025年7月17日にパビリオン内で開催されたサーキュラーエコノミーカンファレンスについてご紹介いたします。本会議では、ルクセンブルクパビリオンの設計・建設・再利用に携わった関係者が集い、パビリオンの構想の背景にある思想や政策、循環経済達成に向けた課題などについて議論が交わされました。是非楽しみにお待ちいただければ幸いです。


本件に関するお問い合わせ先はこちらまで:

ルクセンブルク貿易投資事務所 松野・星

TEL. 03-3265-9621

Email. yuriko.matsuno@mae.etat.lu / ayae.hoshi@mae.etat.lu

 

【連載】「解体から再生へ」―ルクセンブルクパビリオンが挑んだ循環の物語 バックナンバー

第1回 パビリオンは終わらない——ルクセンブルクの循環への挑戦

第2回 「サーキュラー・バイ・デザイン」とは何か

第3回 部材編① 膜屋根があなたの手元にー大人気の予約販売

第4回 部材編② 地中から掘り起こされた巨大ブロックの行方

第5回 部材編③ 外装パネルが新たな建物の建築現場に

第6回 部材編④ 鉄骨構造がつなぐ未来

第7回 部材編番外 ボウリングレーンの意外な再出発

第8回 家具・備品編 家具と備品がつなぐ万博とその後の時間